友人と週末の旅行を計画していたところ、出発直前に一人の都合が変わったとします。メッセージアプリで新しい日程を確認し、予約サービスで列車を調べ、ホテルの宿泊日も変更できるか確かめる。カレンダーには古い予定が残り、共有文書の集合時刻も直さなくてはいけません。それぞれのアプリは役割を果たしていても、旅行全体をつなぎ直すのは自分です。
これは考察のための仮定の場面ですが、具体的な問題を示しています。私たちが終わらせたいのは一つの用事なのに、ソフトウェアが提供する能力は複数の場所に分かれている。その間を、利用者の記憶、コピー&ペースト、繰り返しの確認が埋めています。
今では AI によって、小さな要望をアプリにする人が増えうる状況になりました。旅行アシスタント、要約ツール、記録アプリ、管理画面などを作りやすくなっています。期待できる一方で、解決策が増えるほど、それを使う生活も簡単になるのでしょうか。
私の見立ては、ソフトウェアは増え続けても、人が自分で操作する入口は減る可能性があるというものです。その変化には技術、事業上の動機、信頼がそろう必要があります。2026 年 10 月時点で確認できる資料をもとに、この予測の根拠と成立条件を考えます。
なぜ一つの要望が、一つのアプリになるのか
独立した製品を作ることには、実務上の理由があります。乗車券サービスは座席と取引を、宿泊サービスは空室を、メッセージサービスは人間関係を扱います。データもルールも責任も異なるため、専用の画面が複雑な仕事を扱いやすくします。
製品の境界は事業の境界でもあります。アカウントは顧客を識別し、購読料や取引は収入を生み、通知やホーム画面は再利用のきっかけになります。独自の入口を持つことで、提供者はブランドと顧客との接点を築き、機能や価格を決める余地を保てます。
そのため、ソフトウェアの構成には、人の要望だけでなく供給者の組織のあり方も映ります。旅行がいくつものシステムにまたがるのは、すべての情報を当然のように持つ事業者がいないうえ、すべての責任を引き受けたいとも限らないからです。利用者が感じる断絶の一部は、合理的でも互いに離れた境界から生まれます。
もちろん、新しい要望への答えが新しいアプリだけだったわけではありません。表計算、ブラウザー、ソフトウェアスイート、拡張機能は、以前から異なる作業を共通の入口に集めてきました。専門ツール同士の連携もあります。ソフトウェアは分離と統合の間を動き続けており、要望のたびに新しいプラットフォームが必要だった、と歴史を単純化することはできません。
AI が加える条件は、より小さく、一時的で、個人的な要望にも専用ソフトウェアを作れる可能性です。数週間をかけるほどではないと思われた道具でも、試用できる版まで進められるかもしれない。そうした道具が増えるほど、一つの用事のために誰が連携を担うのかが切実になります。
アプリは増えている。数字はどこまで示すのか
RevenueCat の『State of Subscription Apps 2026』が引用する Appfigures のデータでは、毎月新たに登場するサブスクリプション型アプリは、2022 年 1 月の約 2,000 本から、2026 年 1 月には 14,700 本超へと増えました。およそ 7 倍です。対象はモバイルのサブスクリプション型アプリであり、ウェブサイトや企業向けソフトウェア、AI が生成したツール全体を数えたものではありません。出典:RevenueCat/Appfigures
月間の新規サブスクアプリ:二つの時点を比較
2026 年初めの月間追加数は、4 年前のおよそ 7 倍になっています。
- 2022 年 1 月(約)2,000
- 2026 年 1 月(この値を超える)14,700
アプリ追加数のデータ表を見る
| 時点と数値の条件 | 新規サブスクリプション型アプリ/月 |
|---|---|
| 2022 年 1 月(約) | 2,000 |
| 2026 年 1 月(この値を超える) | 14,700 |
報告書の本文にある二つの基準値であり、月別推移の全データではありません。2022 年は概数です。2026 年の棒は 14,700 の位置までを示し、実数はそれを上回ります。対象は iOS/Android のサブスクアプリで、AI で作られた割合は分かりません。
出典ここから言えるのは、ある種類のソフトウェアの供給が急増しているということです。どのアプリが AI によって書かれたかは特定されておらず、増加のすべてを AI が引き起こしたとも証明されていません。公開数の増加と AI 開発ツールの普及が同時に起きても、因果関係は別途確かめる必要があります。
制作過程に近い資料もあります。Anthropic は 2025 年、Claude.ai と Claude Code のプログラミング関連のやり取り計 50 万件を分析し、ウェブ開発言語や利用者向けインターフェースの作業がよく見られる用途だと報告しました。AI が人の使うアプリの制作に利用されていることを示しますが、Claude の利用状況を、世界で公開に成功した製品数に換算することはできません。出典:Anthropic
混同されやすい二つの意味も分ける必要があります。「AI を使って作ったアプリ」に AI 機能があるとは限りません。「AI を主要機能にしたアプリ」が従来の開発方法で作られている場合もあります。AI 製品の売上や継続率を調べても、そのまま AI が書いたソフトウェアの品質評価にはなりません。
資料を合わせて無理なく言えるのは、市場の一部で供給が急拡大し、AI が制作に参加しているということです。利用者がどれだけ吸収でき、どの道具が長く残るかには、需要側の根拠が必要です。動くアプリを作ることと、もう一つ管理したいと思ってもらうことは、別のハードルです。
負担は、機能の外側にもある
旅行に戻りましょう。どの道具も使いやすくても、最新情報がどこにあるか、どの予約を先に変えるか、誰がまだ確認していないかを把握する必要があります。宿泊予約画面が美しくなっても、その仕事は減らないかもしれません。
負担はさまざまな時点で生じます。導入前にはプラン、価格、信頼性を比べ、導入時にはアカウントや権限を設定し、操作を覚える。利用中には文脈を切り替え、データを移し、同じ事情を説明する。後には、残す契約や書き出す記録を選ぶことになる。機能一覧には表れにくいコストです。
職場には関連する兆候があります。Microsoft の 2025 年 Work Trend Index は 31 市場の知識労働者 31,000 人を調査し、従業員の回答者の 48% が仕事を混乱し断片化したものと感じると答えました。これは特定の就労層の自己申告であり、「人の半数がアプリに疲れている」と一般化できず、原因が道具の数だとも断定できません。出典:Microsoft
さらに以前の CHI 2008 の実験は、別の注意点を示しています。中断がある条件では、中断自体に費やした時間を差し引いた作業時間が短くなった一方、ストレス、いらだち、努力の自己評価が高くなりました。参加者は 48 人で、その 81% はドイツの大学生。統制された模擬オフィス作業であり、現在のアプリ疲れの広がりを測る研究ではありません。研究:The Cost of Interrupted Work
次の二つの図は、三条件を同じ順序で並べ、時間とストレスを別々に示します。注目すべきなのは速度と感覚が異なる方向に動くことです。二種類の中断の小さな数値差だけで、どちらが有害かは判断できません。
中断のある条件で、正味の作業時間は短かった
中断そのものの時間を除いた値であり、開始から終了までの総経過時間ではありません。
- 中断なし22.77
- 同じ文脈の中断20.31
- 異なる文脈の中断20.6
正味作業時間のデータ表を見る
| 実験条件 | 平均正味作業時間(分) |
|---|---|
| 中断なし | 22.77 |
| 同じ文脈の中断 | 20.31 |
| 異なる文脈の中断 | 20.6 |
全三条件を経験した 48 人の平均値です。ばらつきは図示していません。同じ文脈とは、主課題に関連する内容の中断を指します。全体として時間が節約できたことを示す図ではありません。
研究の出典同じ実験で、主観的ストレスは高かった
中断のある二条件とも、中断なしの条件よりストレス評価が高くなりました。
- 中断なし6.92
- 同じ文脈の中断9.46
- 異なる文脈の中断9.13
主観的ストレスのデータ表を見る
| 実験条件 | 平均ストレス評価(1–20) |
|---|---|
| 中断なし | 6.92 |
| 同じ文脈の中断 | 9.46 |
| 異なる文脈の中断 | 9.13 |
評価尺度は 1(低い)から 20(高い)。棒はゼロを基点として平均を示します。主観評価なので、点数差を「ストレスが何パーセント増えた」と換算することはできません。現在の消費者調査でもありません。
研究の出典操作速度だけを測ると、その速度を保つために人が払う代価を見落とします。新しい画面が時間短縮をうたう場合も、待ち時間、確認、心理的負担を評価に戻すべきです。
断片化や中断のコストを重視する理由はありますが、「AI アプリがすべての人を疲れさせた」とは言えません。観察すべき圧力として捉えるほうが妥当でしょう。新しい道具が省く作業より、選定、設定、調整で増える作業が大きければ、人はより楽な仕組みを探し始めます。
AI がこの問題を強める可能性もあります。各アプリに個別の事情説明を必要とするアシスタントが加われば、管理する会話も増えます。部分の能力が上がっても、全体の調整は重くなりえます。
一つの用事を中心に組み立てる画面
前の記事〈AI で実装が容易になるとき、プロダクトは何を理由に選ばれるのか〉では、製品が結果に責任を持つことを考えました。複数の製品に視点を広げると、次は、利用者が目標から始め、システムが必要な能力を目の前に集められるかが問題になります。
旅行の変更なら、新しい日程、同行者、許容できる費用をまず伝える。許可した旅程情報を使い、調整可能な項目をまとめて示してもらいます。カレンダーには予定の衝突、比較表には列車と宿泊案、未確認の友人には明確な状態表示がある。支払いや取り消せない変更の前には、具体的な影響を見て自分で決めます。
この仮定の画面には三つの仕事があります。目標と条件を理解し、背後のサービスを連携させ、その時の判断に適した表示を出すことです。自然言語は変更理由を伝えやすく、カレンダーは時間を、表は差を見やすい。頻繁に使う操作は位置を固定し、慣れた動きを速く保つ価値があります。
この方向の初期実装はすでにあります。Google は 2025 年、要求に応じてモデルが対話的なページやツールを作る生成型インターフェースを紹介しました。同時に、当時は生成に 1 分以上かかる場合や誤りもあると説明しています。選好評価は生成時間を含まないため、日常の効率が優れているとまでは言えません。出典:Google Research
Claude が 2026 年 1 月に発表した対話型の連携ツールは、Asana や Figma などを会話の中で操作できるようにしました。既存製品の能力を共通の作業場所に持ち込む統合です。機能の発表は実装可能な方向を示しますが、長期的に負担を減らすかには利用研究が必要です。出典:Claude
この先、一部の小さな道具は、一つの作業の間だけ現れ、終了すれば片づくかもしれません。ただし旅程、文書、操作記録は、保存、共有、再表示できなくては困ります。そうでなければ、アプリを探す手間が、長い会話を探し直す手間に移るだけです。
生成できるからといって、毎回デザインを変える必要もありません。確認ボタンが毎日移動すれば、短縮した時間は学び直しに消えます。安定した操作の仕組みと変更可能な内容を組み合わせ、作業に合わせて変わりながらも慣れを保つ方向が現実的です。
入口を減らす前に越えるべき壁
まず信頼性です。旅行アシスタントが安い券を見つけても、到着日を読み違えるかもしれません。交通の変更が済んでも、ホテルは返答待ちかもしれない。複数サービスの作業には複数の状態があり、完了、失敗、引き継ぎが必要な部分を見えるようにする必要があります。画面が一つになっても、責任まで自動的に一つにはなりません。
「使いやすさ」は用事全体のコストで測るべきです。アカウント接続、事情説明、実行待ち、結果確認、失敗の修復にかかる時間と、監督を続ける心理的負担を含めます。クリックが十回減っても、予約ミスがないか三ページを読むなら、割に合うとは限りません。設定を複数の作業に再利用できれば、効果が蓄積する余地があります。
直接操作にも価値があります。表計算に慣れた人なら、要望を文章にするより一度のドラッグで終えるほうが速いかもしれません。デザイン、編集、工学の道具には精密な制御が必要です。ゲーム、交流、コンテンツ閲覧は、使う過程そのものが目的でもあります。専門的な画面や専用アプリが残る理由は十分にあります。
事業上の動機も問題です。旅行サービスは別の入口に顧客接点を委ねるでしょうか。統合サービスはどのデータや操作権限を得られるでしょうか。アシスタントの推薦では何が表示され、順序は何に左右されるのか。技術的につながることと、事業者が開放を望むことは別です。
入口の集中は新たな依存も生みます。好み、履歴、権限が一か所に集まれば、乗り換えのコストは上がるかもしれません。データを持ち出せるか、推薦の根拠を確かめられるか、別の提供者を選べるかを利用者が知る必要があります。操作が簡単になるほど、画面に出にくい選択肢も残しておきたいものです。
そのため、最後には誰もが一つのアプリだけを使う、という考えには疑問があります。生活、会社の仕事、専門的な制作、娯楽には異なるデータの境界と操作の要件があります。少数のよく使う入口と、直接開く価値のある専門ツールが共存するほうがありそうです。入口同士がどこまで連携するかは、まだ決まっていません。
今後五年、何を観察するか
以下は 2026 年 10 月を起点とする私の判断です。期間は観察の目安であり、厳密な期限の約束ではありません。確信度も相対的な判断で、統計的な確率ではありません。
| 期間 | 予測/確信度 | 観察する指標 |
|---|---|---|
| 2026–2028 | 既存の入口がより多くのサービスを統合/比較的高い | 切り替えが減り、確認と修正を含む総時間が短縮 |
| 2028–2031 | 一部の用事で画面を必要に応じて構成/中程度 | 結果の保存、共同作業、再利用、例外処理が可能 |
| さらに長期 | 複数の入口と専門アプリの共存:中程度/世界共通の単一入口:低い | データ可搬性、相互運用性、事業者の意欲 |
第一の予測に比較的自信があるのは、既存サービス上で段階的に進められるためです。利用者は検索、整理、下書きから任せ、結果を見て委任を広げられます。背後のソフトウェアが増えても、自分が理解する操作経路は短くなる可能性があります。
第二の予測には、デモと日常利用の間を埋める必要があります。一度美しい旅行ページを作ることと、三か月後に予約記録を見つけ、同行者と共同編集することは難しさが異なります。繰り返し使われるか、手作業の転記が減るか、ツール更新後もデータが使えるかを見たいと思います。
長期的に最も不確かなのは入口を誰が持つかです。モデルの能力だけでなく、データ、権限、流通、信頼も条件になります。専門サービスは他者から呼び出される能力になるかもしれず、自分の画面と顧客関係を保つかもしれません。一つの技術指標で決まる道ではありません。
予測が外れる可能性も残す必要があります。遅延、誤り、確認の負担によって人が元のアプリに戻り続けるなら、入口の集約という見立ては一部の場面に狭めるべきです。利用者が増えても総負担が下がらなければ、普及を使いやすさの証明にはできません。
道具が下がり、人の用事が前に進む
製品チームにとって、「次に何を増やせるか」より具体的な問いがあります。利用者が覚えずに済むこと、繰り返し説明せずに済むこと、待ったり直したりせずに済むことは何か。その答えは新機能かもしれず、良い連携や、別の入口からでも自社の能力を確実に使える仕組みかもしれません。
旅行に戻りましょう。望ましい結果は、一度変更を説明し、分かりやすい画面で案を比べ、未確認の人を把握し、必要なところで判断できることです。終わった後の旅程と記録は、見つけられて持ち出せる場所に残ります。
裏側のソフトウェアは今より多いかもしれません。違いは、自分がすべてのサービスをつなぐ役を担わなくてよくなることです。次のインターフェースが本当に進歩したかを、私はそこから判断したいと思います。
